小説 一炊の夢 ‐琉球戦国哀史‐
『小説 一炊の夢 ‐琉球戦国哀史‐』
東風文夫
前回の方沖で、那覇メインプレイスの球陽堂書房(くまざわ書店)を初訪問してみたところちょっと変わった本が。自費出版っぽかったから逃すと見つけるのムズカシイだろうなー。と即購入。
(おっと。ちょっくら検索かけたらkindle版出てる❕
気になる方は是非kindle版を。kindle unlimited会員は読み放題対象。)
2章構成で、
前編が護佐丸・阿麻和利の乱(尚泰久の時代)
後編が尚泰久後(金丸の時代)
を中心としたストーリー。
この小説のポイントは…
★登場人物の年齢設定がしっかりしている
文中にもそれれぞれの人物の年齢がしょっちゅう出ていて、人物像や人物関係がイメージしやすい。著者前書きで誰をどんな年齢設定にしたのか、尚徳に関しては何故かも書かれていて興味深かったです。ガッツリ年齢突き合わせてもう一回読みたい。
★登場人物の内心の描写がある
ここは好みが分かれるかもだけど、私は好きでした。
会話文中やで、(カッコ)書きでその人物のホンネなところが書き足されていてそれがまたクスッとなったり、へーこんなこと考えてるんだーと驚いたりと面白い。特に金丸と賢雄のやり取りと阿麻和利の戦での内心描写。
★今まで読んだ小説では出番少な目だった人物がの出番が多め
尚泰久の子、金橋・多武喜(準主役クラス)
護佐丸の子 盛光・盛明(盛親はまだ小さいので殆ど登場ナシ)
賢雄の弟 賢休・賢膺
程鵬(金丸と同年代設定)
尚威宣 など。
金橋・多武喜は出番も多くて、尚泰久亡き後の後編にもガッツリ登場。
あーね。確かに彼らがこういうこと考えるっていうのも現実的かもっていう。
尚徳の即位について、母(護佐丸の娘について)、賢雄との関係性etc...
★新しいイメージのオギヤカ+尚真誕生の謎
一番ぶっ飛び設定と思ったのがここ。
最初のページで相関図見たとき、
え?ミス??って思ったら、まさかのマジ設定。
気になる方は是非一読を💭
以下ネタバレ注意
私が小説中で気になった人物の印象を
・金丸
「国王」金丸というより、「人間」金丸な部分にも焦点が当たっていて、金丸という人物全体を割と描いてる気がした。
オギヤカの存在や行動に対する反応が超クール。(でも冷たいとはちょっと違う)
だったり、物事に対する見方がちょっと一歩引いて戦略的だったり。
こういうところは琉球戦国キャラクター図鑑の金丸イメージに合うかな。
王という視点からだけではない、越来時代とか、自分が国王になるなんて全く思っていなかった時代とか、策士な部分とか、そういうのも含めた金丸に興味あるわ♡
もうちょっと絡み欲しかったかなというのはあるけど、程鵬と金丸を絡めてきたところも程鵬をこの年代と解釈するのかというのがフムフムポイント。
そうそう、この小説の金丸。私の思う金丸像とかなり近い!!
・賢雄
この賢雄も好きだった。性格というか言動というか。
「鬼大城」でただ強いってだけじゃない。もうちょっと深みがある人物像。
・尚威宣
尚威宣は今までの人物イメージと大きく異なっていたわけではないけど、
ちょくちょく登場して、小説内で存在感があるわけではないけど、登場が物語のスパイスになってる。で、地味に後々には重要人物。
新しい人物像が印象的だった人物としては、オギヤカ以外だと尚徳かな。
・尚徳
年齢設定も一般的な踏揚の弟設定ではなく兄設定。
血気盛んで暴君傾向というよりも、頭も切れて、自分の信念をしっかり持ってるという人物像。金丸ともバシバシやり取りしたり。
・ 尚真は実はオギヤカと尚威宣の子( ゚Д゚)設定
さっきも書いたけど一番のぶっ飛び所。
この小説のオギヤカは、一般的な女傑・策士イメージと違って、
大人しめな、気立ての良い女性。そんなんなもんで、切れ者な金丸より、温厚で無欲な性格の尚威宣を好きになっちゃう。
金丸はそれを黙認(オイ!)。自分とオギヤカの子として公表。(尚真が生まれた時点で金丸は尚威宣に妻を娶らせる)
オギヤカも金丸の妻として過ごしつつ、尚威宣を密かに思い続ける…
この設定も案外悪くないんじゃない。
なーんて思ったけど、この設定で行くと、
尚威宣退位は、オギヤカ全く関係なしのマジなノロの託宣とか、
尚威宣が、自分、国王とかやっぱり向いてないから息子に譲ることにするわ
みたいな裏があったってするのもありかもしれないけど…
玉陵の碑文の説明がどうしても上手くつかなくなるというのが問題+疑問かな
玉陵の碑文の一体何なんだ!というね。
(だた、この小説自体は金丸逝去、尚威宣即位直前で終わるからこれより後のことは知らんという具合なのかもだけど…)
とまあ何かと読み応えたっぷりなのでした。
御冠船踊と組踊「執心鐘入・銘苅子」
御冠船踊と組踊「執心鐘入・銘苅子」
2019.10.4/5
国立劇場おきなわ 野外公演 特設御冠船舞台
本格的に組踊や琉球舞踊を生で見るのは初めて。
ここ最近組踊300周年で話題だったこともあって、
組踊展に行ったり
琉球伝信録を観に行ったり
思五郎が行くを読んだり
組踊ワークショップに参加したり
と組踊誕生の背景や構成について、ついてある程度は予習したうえで初観劇。
300年前の首里城御冠船舞台を再現ということで、
首里城の御庭を想像してみたり、
冊封使になった気分を想像(笑)したりもしながら鑑賞してみました☆
- 御冠船踊
御冠船踊は2日とも同じ内容
入子躍
入れ子のように円の内側に小さな円が入って、三重になって踊る形式
ステージガイド 華風 2019.10より引用
音楽に乗せて、円状に若衆(赤い衣装)と二才(青の朝衣)が歩きながら、
若衆と二才が円の内側と外側を入れ替わりながら、
風車、扇子、花(菊)、銭太鼓と若衆の持つ小道具が変化しながら、
大きな動きや変化があるわけではないんだけれど、
万華鏡みたいで見ていて飽きない✨
今回の公演で一番好きな演目でした。
若衆は、王国当時と同じように13-18歳位であろう子どもたちが踊っていて、それがまた愛らしくて、可愛い✨
老人老女
老人による祝言と踊り
おい!おじいさん。あんなに杖ついてヨボヨボしてたのに、このしっかりした踊りっぷりは何なんだ!!
あんなに足腰しっかり踊れるんなら杖は要らないし、もっとサッと立てるだろ!
というツッコミは演目の進行に対して入れたくはなったのですが、舞踊の方はベテランの方の安定感抜群の踊りでした。
扇子躍
祝儀舞踊。今日の「特牛節」
扇子の動き、踊りの所作、紅型の衣装、演奏どれも素敵だった。
これも見ていて飽きないし、美しかった。
- 組踊
「執心鐘入」
テンペストで初めて知って以来、テンペストのドラマでほんの一部だけ見たことがありましたが、それからかれこれ8年ようやくフルバージョンを生で見ました。
組踊ワークショップで聞いた解説も鑑賞の役に立ちました☆
小僧たちの掛け合いも面白かったし、本当に大きな鐘が出てきたり(鐘の底にはコマか何かついてたのかな?2人でガラガラ転がして鐘は登場しました)、女が傘に隠れたら顔に赤い線がついて鬼に変身したり、「クスッと笑える」見どころが多くて面白かったです。
「銘苅子」
執心鐘入と比べると「クスッと笑える」というような場面は少なかったですが、その分「組踊」的な、台詞の言い回し、所作、地謡により注意がいきました。
銘苅子といいながら銘苅子よりおめなりとおめけりの出番の方が多かった気がするのは気のせい??
天女の衣装が豪華なのは当たり前だけど、
銘苅子、農民ってさ。衣装豪華すぎない?っていうツッコミは入れたくなりましたが、ま、舞台だからね…今でもドラマって現実とちょっと違うよなってことあるし、昔もそうだったんだろうってことにしておこう。
- からくり仕掛け花火
点火とからくりの披露が終わった後のからくり花火
ぐるぐる回転している筒から花火が噴き出したり、折りたたんであった絵や文字や飾りが開いたりと、「からくり」そのもの。
花火の火の方も1か所からだけではなく何か所からも順番に、ときに同時に火が出て、火も勢いよく噴き出していて、見ごたえありでした。
1日目と2日目で少しからくりの出方が少し違う気もしましたが、全く同じものを作るのは現代と違って難しかったんだろうなということも感じました。王国時代だってそうだったんだろうから、現代の花火みたいに絶対こうっていうのは無いよなと。
- 復元舞台
この公演では300年前の舞台を再現して、そこで上演するというのも大きな特徴の1つ。
舞台背景に幕がない、三方が見渡せる、登場人物の出入りが橋掛り一か所からのみというのが王国時代の組踊舞台の特徴だそうです。
国立劇場おきなわには、当時の舞台の復元模型が展示されていました
で、実際の舞台はこんな感じ。
- 公演全体の感想
観劇してみてですが、ワタシ、琉球舞踊が結構好きかもって思いました。
手の返しとか動作とか見入っちゃうし。
組踊もモチロン良かったけど、入子躍がこの公演で一番好きだった。次が扇子躍。
もうちょっと舞踊いろいろと観に行ってみたいかも。
それと、紅型。
博物館などで展示されているのを何着も見てきたけど、それを実際に人が着る、着て動くというのが、この公演を通して何種類もの紅型衣装を見る中でより実感として湧きました。
衣装が風に吹かれてヒラっとなったりするのは野外公演ならで、それも私的には見どころでした。風の吹き具合もちょうどよかった。風がなさすぎず、強すぎず。2日間とも天気が良かったの奇跡だね。
(言わせて。テンペストファン的感想。
初めて組踊と琉球舞踊を生で見て嗣勇の人間像をよりリアルに感じられたし、
「1838年の台本を用いる」って尚育王冊封の時のじゃん!ドンピシャでテンペスト✨テンペストファンとしても観劇出来て最高でした)
今回は琉球王国時代当時に近づけた演出で進行されたので、
現代バージョンも観てみたいなと思いました。
滅多にない貴重な舞台を観ることができました。
本当に行って良かったっ❕❕❕
まだまだ伝統芸能については勉強不足ですので、表現や内容が適切でない箇所があるかもしれません。その点を念頭に私、プニの感想としてお読みください。
参考 御冠船踊と組踊「執心鐘入・銘苅子」フライヤー、ステージガイド 華風 2019.10
琉宮城の姫君
琉宮城の姫君 (小説すばる10月号 掲載読み切り中編)
滝沢志郎
あらすじ
大正時代の沖縄。東京から沖縄に赴任した教師(吉永光太郎)は、ある事情で学校を去ることになる教え子(高良倫子)から「宝探し」を依頼され、同僚の女性教師(渡名喜千代)と宝探しに出かける。そこで彼らが見つけたものとは...
初めてあらすじを読んだときは面白そうではあるけど「宝探し」って…
と思っていた部分もありましたが、上手くストーリーとして組み立てられていて、全く違和感なく読めました(^^)
王国時代から大正(+ちょっとその先)まで幅広い時代・分野の
琉球史・沖縄のエッセンス満載。一言で表すと。
琉球史ファン必読
以下ネタバレ注意
大正を舞台にした小説と聞いていたから、ほとんど大正時代で展開するのかなと思いきや、意外に琉球王国時代も繋がって出てくる!
大正の部分は、大正の沖縄らしく鉄道旅が出てくるっていうのが私的なポイント。沖縄が舞台なのに鉄道で旅行してるのがなんとも新鮮。
王国時代のメインは1700年頃。尚敬王代。
同じ尚敬王代を舞台にした『思五郎が行く』を読了して3日と経たないうちに読み始めたので、そっちの記憶も新鮮でより味わいも深くなりました☆
『思五郎が行く』のラストとかなり繋がったしね。
ちなみに宝探しの「宝」。最初の頃の「宝」の背景の説明を読んで多分あれだろうなって思ったのが家譜。
予想はバッチリ当たりました。
中盤。
生徒(倫子)の先祖モデルって...と『思五郎が行く』で読んだのがピンときた。
もう一回思五郎を読み返して。平敷屋朝敏!
宝って平敷屋朝敏の家譜か❕
琉球史の謎を上手く取り入れた設定でもう最高♡
でも、本当に平敷屋朝敏の家譜の写本どこかから出てきたら面白いのになぁ
終盤。
『姫百合(ひめゆり)』でもう一回ピンときた。
あっ。これもそういうことか。
数十年後の沖縄戦で倫子の後輩たちに起こったことを考えると胸が痛かったです。
渡名喜千代は生き残ったんだろうか。
倫子が墓に戻した家譜はどうなったんだろう。
倫子は沖縄に家譜を取りに戻ることが出来たんだろうか。
そんなことを考えました。
そうそう。
「鷲の鳥」聞いたことなかったから、Apple musicで聞いたよ。
沖縄の歌もっと聞きたいな。
夢中になって一気読みしました。こんなに小説に夢中になったのは久しぶり。
(テンペストが大きすぎてあれ以来、なかなか夢中になれる小説に出会うことって少ない)
しかも、こんなにスッと感情移入できた中編は初めて。
私は普段圧倒的に長編派。読み切りの短・中編ってなかなかハマれないし、今までハマったのも殆どないくらい。
僅か30ページにこれだけの琉球・沖縄エッセンスを盛り込めたのはすごいなぁと感心。
そして、まだまだ琉球史のこと沖縄のこと知らないことたくさんあるなと思った次第。
読んで調べたくなる。そんな小説でした。